ギター・ベースのネックの力について考える

ギターの弦の力について考えた前々回前回とディープな考察をしてきましたが、今回はネックです。
中古楽器店で働いているとギターやベースのネックの反りについて、多くの質問を頂きます。
実現可能な弦高がこれによって大きく左右されると言っても過言ではありません。
弦高は演奏性に直結します。(好みは人それぞれですが高いにもやはり限度があり、エレキギターの場合で1弦12フレットで3mm以上を好む人はまだ見たことがありません)
そんなネックについて今回は深く掘り下げていきます。

ですが、まずいきなりお詫びしないといけないことがあります。
ネックの張力によって発生する応力、変形をご提示したかったのですが、僕のスペックの低い頭では「え?ホントに?そんなわけなくない?」という結果になってしまったので、こちらは改めて記事にできるよう勉強し直してまいります。

じゃあ何も書くこと無いじゃないかと思う方もいらっしゃるかと思いますが、そこはご心配には及びません。
実はネックにかかっている力は弦の張力だけでは無いです。

ネックは弦の張力によって順ぞり方向に曲げの力が加わっています。←ほんとはこれも書きたかったですが…
同じスケールの別のギターに同じゲージの弦を張った場合にはネック部分に発生する張力由来の応力は同じです。
(ネックのグリップ形状、素材等によって変形の仕方が変わります)
でも同じ仕様でも、ネックの反りはそれぞれ違うことがあります。
ネック材自体の強度の差もありますが、他にも違いを生む要因があります。

ネックの内側に存在する内部応力とは?

それはネックに内在する「内部応力」という力です。これこそが今回の本題です。
これは木材という材料の性質上、避けては通れない見えない力です。

ネックの波うちなどの不規則な変形はこれが主な原因です。(他には強度分布の差が原因となります)

この内部応力というのが非常に厄介で、木材の中に均一に存在するわけではないので、計算とかそういうもので求めることが出来ません。
木材の色々な個体差のうちの一つなんです。

ハイエンドメーカーが「木の狂いを出し切る」という表現をしているのを見かけるかと思います。
これは木材の内部応力を除去していると捉えて差し支えありません。

木材を切ったり削ったりすると、元々反っていなかったものが反る場合があります。
これは切り落としたり、削り落とした部分の内部応力が無くなったために、それとは反対側に働く内部応力が材料を変形させたためです。
(ベテランの木工職人の方々はこれがどの様に分布しているかを、幾多の経験から把握することが出来るようです)

加工時に瞬発的に発生する変形は加工の段階で取り除くことが出来ます。
ただ、木材内の水分移動や、その他の経年で変化(ほとんど減少)する内部応力によるスローな変形はユーザーの手に渡ってから顕在化してきます。

製材→加工→出荷
この時間が短い楽器ほど、このリスクは高くなります。

内部応力の除去を考えて加工に時間をかけると・・・

未加工品、半加工品等を工場内に置いておくスペースがたくさん必要になります。スペースが限られている場合にはたくさん作れません。
工程も多くなるので人件費もかかります。 それらのコストが価格に上乗せされ高額な楽器になりやすくなります。
3ピースのメープルネック等はこの内部応力や強度の分布を平均化して不規則な変形を抑えようと意図したものだと思います。(あとはコスト的な理由も考えられます)

さて、では変形してしまったらどうしましょうか。
買い替えですか?

いやいや、愛着のある楽器なら長く使いましょうよ。

ギター/ベースのネックが変形した場合の対処方法

対処方法があります。

演奏性を左右する精度が必要なのは指板面です。(厳密にはフレットの頂点ですが、そこを実現するには指板面の精度は非常に大切です。)
指板面の変形を削り落として高い精度で再整形するのです。
指板のすり合わせと呼ばれる作業です。
フレット打ち替えをリペア工房へ依頼するとこの作業は必ず行います。
フレット打ち替えって、ただフレットを抜いて新しいものに打ち替えてるだけじゃないから値段も高くて時間がかかるんですね。

これによって経年で減少してきた内部応力分の変形が取り除けますので、ある程度古い楽器ではその後の不規則な変形は出にくくなります。
(※材料そのものの強度不足は補えません。それは別途補強材を入れる等、別の対処が必要です。)

注目の木材処理方法サーモウッドとは?

実は製造前の段階で効果的に内部応力を減少させる方法もあります。
2001年にフィンランドで開発された、サーモウッドという木材の処理方法です。(類似した処理も多数存在し、それらも同様に木材の内部応力を減少させる効果を期待できます。)

日本国内でもサーモウッド処理された材料を使用するメーカーがいくつか存在します。
それらの楽器はまだ有効な検証ができるほど、製造されてから年月は経過していないと思いますが、理論的には波うちなどの変形はかなり出にくくなっているはずです。
ただし、材料自体の強度が上がっているわけではないので、もともとの木材の質も非常に大切です。

これにはちょっとしたデメリットもあります。
処理の際に木材が酸性化してしまうので、ペグを止めるビスや、ボルトオンタイプのジョイントの場合にはジョイントビスの錆が発生しやすくなります。
(酸性化を抑えた処理方法も開発されていますが、楽器材としての採用は進んでいません。)

今のスタイルのエレキギターが一般的に普及し始めた1950年代から比べ、木工技術の向上だけでなく木材処理の研究、開発が進んでいるのが分かります。

他素材の採用もあります。
1970年代にはアルミニウム、1980年代にはグラファイトと、木材以外の材料がネックに使われるようになりました。

これらは木材に比べ、高強度で個体差が少なく、ネックの変形も予測しやすい素材です。
ただ、素材自体の単価や加工性からか、高価になりやすい印象です。

このようにアジャスタブルトラスロッドが登場(これホント革命)した以後にもネックの変形に対するアプローチは研究されていますが、今後、楽器にも応用できる優れた素材が開発されても、よほどのものでない限り、主流は木材であり続けるであろうと僕は思っています。
仕方ありません。音楽というのはことほど左様に保守的なんです。
レスポールはマホガニーネック、ストラトキャスターはメイプルネックでないといけません。(この中に存在する例外の余地は限りなく少ないです)
全員がその信仰のもとで楽器に接しているわけではありませんが、一度確立された伝統を変更されることにアレルギー反応を持つ人は大変多いです。
自覚はありませんが僕もその一人かもしれません。

しかしながら、優れた木材も有限です。かつてのように潤沢ではありません。
ワシントン条約で移動、使用もどんどん制限されます。(これはハカランダに代表されます。)
楽器業界にとどまらず、新素材の開拓は急務です。
環境への負荷が低く、持続性のある高強度の素材。これを楽器ユーザーではなく、社会が望んでいます。

非凡な誰かが今ある伝統に淘汰されないほど魅力的な新しい素材のギターやベースを作ってくれれば、木材のネックの研究は真空管オーディオのようなマニアの為の学問となるでしょう。
しかし、それらの研究成果は新たな技術にフィードバックされ、楽器の精度をさらなる境地へ高めてくれるものと信じて止みません。
そしてそこから楽器業界が再び盛り上がることを願うばかりです。

まとめ

なんかちょっとネックの力とは関係の無い方へ話が逸れてしまいました。
ともあれ、まだしばらくは従来のネックと付き合わねばなりますまい。
なのでもっともっと理解を深め、楽器を末永く使ってあげましょう。

今回は演奏を高める内容ではありませんでしたが、楽器を選ぶ際の一つの参考になったのではないでしょうか。
ですが、こればかりで頭でっかちになってしまうのも良くありません。
まずはご自身の欲しい楽器というのもはっきりさせておくのがいいでしょう。

では。

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