ギターの弦の力について考える ~前編~

皆さんご存知の通り、ギターは弦楽器ですね。弦が無いと音も出せません。

でも、弦にどんな力がかかっているのか意識した事はないのではないでしょうか。

という訳で今回は弦の物質的な性質や張力等を少し掘り下げてみようと思います。

この記事は音楽らしい話はあまり出てきません。
また、ある程度の工学的な知識が必要になるかもしれませんが、ご容赦ください。
もちろん出来る限り分かりやすくしたつもりです。
と言っても僕も専門的に勉強をしたわけではありませんので多少の間違いがあるかもしれません。
予めご了承ください。

早速ですが、新しい弦を貼った時に弓のツルを引くように弦を引っ張る人いますよね?
僕もやりますけど。
「弦を伸ばすため」という説明をしている方が多いように思います。
あれをやると、弦がどういう状態へ変化するのか考えてみましょう。
いや、その前にそもそも弦って、通常使用される張力でどれくらい伸びてるんですかね。

弦にかかる張力で、弦はどれくらい伸びるのか?

まずは一般的な金属素材の応力歪曲線を確認しましょう。

※Wikipediaより引用

これは具体的な数値は入っていませんが、金属の引っ張られた長さに対してどれほどの力がかかるのかという図です。

線にかかっている左の点から説明します。
Rehの点は上降伏点と言います。
Relの点は下降伏点と言います。
Rmは引張強度(極限強度)と言います。ここが一番強度が出ているところです。

弾性限界(変形しても元に戻りきれる限界)は上降伏点のすぐ手前ぐらいにあります。
(上降伏点を境界に弾性域と塑性域を分けて説明している資料もあります)
そこまでは引っ張った寸法に対して応力の上昇が急さであるのに対して、
その先は伸びてしまっても応力の上昇が緩やかになります。
一番強度が出ているところは既に塑性変形(そせいへんけい)していますので、通常使用するのには適しません。
というかここに1度達してしまったら元の形には戻らないので、要求される強度が弾性域で設計するのが普通です。

少々雑に説明すると弾性域(引張寸法に対して応力が比例になる部分)の式がヤング率と言います。
素材によってこの係数が違います。

はい、聞こえてますよ。

応力って何?という声。

簡単に説明しましょう。

そもそも応力って何?

輪ゴムを用意して(思い浮かべて)、それを机の上に置いてください。
丸いですね。
今、その輪ゴムには力がかかっていません。(重力はー?とかは今は結構です)

今度はゴム鉄砲の要領で伸ばしてみましょう。
伸ばしてんだから当然ですが、伸びましたね。
伸びてるのが戻ろうとしますよね。
この戻ろうとする力が応力です。

今度は逆に考えてみましょう。
伸びてる輪ゴムがあります。
なんで伸びてんでしょう。
力が掛かっているから伸びてるんです。
くどいようですが伸びてるのは戻ろうとしてます。
つまり、応力が発生しているんです。

伸ばそうとする力と戻ろうとする力が等しい時は伸びも縮もせず、寸法は安定します。
当たり前ですね。
戻ろうとする力より大きな力で伸ばそうとすれば伸びますもの。

さあ、応力、わかりましたね。

どれだけ力がかかってるとどれだけ伸びるのか、これがヤング率です。
応力歪曲線の直線部分がこれです。

図の読み方を説明したところで本題。

張力はダダリオのHPから参照します。
今回は考えやすくするためにピュアニッケル弦のEPN110で考えます。

(合金ではないため)
1弦では0.010の弦でレギュラーチューニング時の張力は648mmで7.36kgf。
弦の断面積が0.05mm²です。
1mm²辺りは147.2kgfです。
ニッケルのヤング率約20tf/mm²から計算してみて歪み(伸びるの)が0.7%ぐらいですね。
ちなみに弾性限界がだいたい1%ぐらいです。

ナットからペグ、サドルから弦のボールエンド分を合わせて220mm位と考えてトータルの弦の長さが868mmくらい。
そこに0.7%をかけると伸びた寸法がでます。
はい、だいたい6mmくらい伸びてるんですね。

残りの0.3%(3mm弱)伸ばすには12フレット付近で40mm程度、弦方向に対して垂直に引っ張らないといけませんが、そこまで伸ばすまでに結構な力が要ります。
(というかその先はやらない方がいいですよ)

という訳で、引っ張っても元の長さに戻るので弦の長さが伸びているわけではないことがご理解頂けたかと思います。

弦交換の際に、弦を引っ張るとチューニングが下がる理由

でも、新品の弦を引っ張るとチューニングは下がりますよね。
弦は伸びてないのになんででしょうか。
引張方向ではない力の掛かり方を考える必要があります。

弦の曲げ剛性です。
当店には計測機具も資料も無いため、有効な数字による考察ができませんが、これは比較的簡単にイメージが出来ますのでそれで堪忍ください。

薄いプラ板みたいな弾力のある材料を円筒上のものに巻き付けると元の真っ直ぐの状態に戻ろうとしますよね。
そんな感じの事象がペグポストで起こってるんです。
線状の材料にも板バネのような曲げに対する弾性があるんです。

弦に使用される素材は曲げの力が加わると比較的容易に塑性変形しますが、オンチューニングになる張力だと元の形状に戻ろうとする力(応力)が残ってるんです。
なのでその時点よりも強い張力をかけると、更に変形をして応力が抜けて、弦がしっかりとペグに巻き付いて寸法にゆとりがうまれ、チューニングが下がるんです。

引っ張らずにチューニングしたあとのペグポストと、引っ張った後のペグポストを比べてみてください。
引っ張った後の方がしっかりと巻き付いているのが確認いただけるかと思います。

「弦を伸ばすため」というのはここの部分のことを言っている説明なんですね。

さあ勘の良い人は気付きましたね。
弦が曲がっている箇所は他にもありますよね。
ナットとサドルの部分ですね。(ギターのタイプによってはリテイナーやサドルと弦のボールエンドの間にも存在します)

ここの場合は理想的には各部との接触部分に集中的に曲げの力が加わります。
ですが、実際には上で説明した通り弦にも曲げ剛性がありますので、周辺にも応力が発生しています。
なので弦を張ったら各部きちんと折り目をつけてやるのがいいです。

ただし注意しなければならないのが、折り目をつけるのは弦高やオクターブチューニングを調整してからにしましょう。
キチンとした位置じゃないところで折り曲げてしまうのは良くありません。
弦が折れ曲がっている状態から真っ直ぐに伸ばすのは折れ曲がっている部分に曲げ応力が発生します。
特にサドルとナットの間では、張力以外の力が振動する弦にかかることになるので、チューニングやサスティンに悪影響が出たり、バズの原因になります。なので気を付けてくださいね。

まとめ

今回は弦にかかっている力を考えてみました。
僕自身も漠然とイメージは出来ていましたが、ここまできちんと深く考えたことはなかったので、実は新しい発見なんかもあったりしました。
プレーヤーの方々にはあんまり意味の無い記事だったかもしれませんが、ギタークラフトを志す方なんかには有用な内容になったのではないでしょうか。

今回はフォーカスしませんでしたが、弦の素材によって磁界の干渉の仕方も異なりますのでピックアップからの出音やサスティン等にも変化が出てきます。
こちらは僕の不勉強もありますので、読者の皆様に研究を進めて頂きたいところです。

音楽は文系の分野ですが、音という現象なら理系や工学系の分野となります。
音作りに悩んだらこういう方面から音を見つめてみるのも良い解決方法になるかもしれませんね。